一人の子どもが手足口病にかかると、保護者が次に心配するのは、「お風呂のお湯を介して、他の兄弟にうつってしまうのではないか」ということでしょう。特に、小さな子どもたちが一緒にお風呂に入る習慣のある家庭では、この疑問は切実です。この点を理解するためには、手足口病の主な感染経路を正しく知る必要があります。手足口病は、エンテロウイルスやコクサッキーウイルスといったウイルスによって引き起こされる感染症で、非常に感染力が強いのが特徴です。その主な感染経路は三つ、「飛沫感染」「接触感染」、そして「糞口感染」です。飛沫感染は、感染者の咳やくしゃみ、会話などで飛び散ったウイルスを含む飛沫を吸い込むことで感染します。接触感染は、ウイルスが付着した手でドアノブやおもちゃに触れ、それを別の人が触り、さらにその手で自分の口や鼻に触れることで感染する経路です。そして、手足口病で特に重要なのが糞口感染です。ウイルスは、症状が治まった後も、数週間にわたって便の中に排泄され続けます。おむつ交換の際などに手に付着したウイルスが、口に入ることで感染が広がります。さて、本題である「お風呂でうつるのか」という問題ですが、結論から言うと、お風呂のお湯そのものを介して感染するリスクは、極めて低いと考えられています。浴槽のお湯は大量の水でウイルスが希釈されるため、感染に必要なウイルス量に達することはまずありません。したがって、兄弟が一緒にお風呂に入ること自体を、過度に恐れる必要はないのです。しかし、だからといって全く油断してはいけません。お風呂の場面で本当に注意すべきなのは、お湯ではなく、入浴中やその前後の「接触」です。例えば、体を洗ってあげる際に使うタオルやスポンジを共有すること、体を拭くバスタオルを共有することは、直接的な接触感染のリスクとなります。また、感染している子どもが使ったおもちゃを、別の兄弟が口に入れてしまうといった行為も危険です-。つまり、感染リスクは「お湯」にあるのではなく、「物の共有」や「密な接触」にあると理解することが重要です。お風呂の時間を完全に分けるのが最も安全ですが、もし一緒に入れる場合は、タオルの共有を徹底して避けるなどの対策を講じることが、家庭内感染を防ぐための現実的な落とし所と言えるでしょう。