「足のむくみくらいで病院に行くなんて大袈裟だ」。そう考えている人は、少なくないかもしれません。確かに、ほとんどのむくみは一過性のもので、病的な意味合いを持たないことが大半です。しかし、その「たかがむくみ」が、実は体からの重要な警告サインである可能性を、私たちは常に念頭に置いておく必要があります。むくみ、医学的には「浮腫(ふしゅ)」と呼ばれるこの症状は、血管の中から組織の間に余分な水分が漏れ出して溜まることで起こります。その原因は多岐にわたりますが、特に注意すべきは内臓の機能低下に伴うものです。例えば、心臓です。心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を担っていますが、この機能が衰える「心不全」になると、血液をうまく循環させることができなくなり、特に心臓から遠い足に水分が溜まりやすくなります。初期症状は足のむくみや軽い息切れといった、見過ごされがちなものが多いのです。また、腎臓も重要な役割を果たします。腎臓は体内の余分な水分や塩分を尿として排泄するフィルターです。このフィルター機能が低下する「腎不全」になると、体内に水分が溜まり、足だけでなく顔や手など全身がむくんできます。肝臓も同様で、血液中のタンパク質(アルブミン)を作る機能が低下する「肝硬変」などでは、血管内に水分を保持する力が弱まり、むくみが生じます。これらの病気は、いずれも放置すれば生命に影響を及ぼす深刻なものです。では、どうすれば危険なむくみを見分け、適切な診療科に繋げることができるのでしょうか。ポイントは「いつものむくみと違う」という感覚です。急に始まった、片足だけ、息苦しさを伴う、顔もむくむ、指で押した跡が戻らない。こうした異変に気づいたら、迷わず「内科」や「循環器内科」を受診してください。たかがむくみ、されどむくみ。その小さな変化が、あなたの未来の健康を守るための、最も大切なきっかけになるかもしれないのです。