「虫垂炎」と聞くと、多くの人が「すぐに手術で盲腸を切る」というイメージを持つかもしれません。確かに、一昔前までは虫垂炎と診断されれば、原則として緊急手術を行うのが一般的でした。しかし、近年の医療の進歩により、治療の選択肢は手術だけではなくなっています。現在、虫垂炎の治療法は、大きく分けて「手術療法」と、抗生物質で炎症を散らす「保存的治療(薬物療法)」の二つがあります。どちらの治療法を選ぶかは、患者さんの年齢や健康状態、そして何より虫垂炎の重症度によって決定されます。まず「保存的治療」は、比較的症状が軽い、カタル性や蜂窩織炎性といった初期段階の虫垂炎に対して選択されることがあります。これは、手術を行わず、入院して絶食にし、抗生物質の点滴によって虫垂の炎症を鎮める方法です。この治療法が成功すれば、体にメスを入れることなく回復でき、入院期間も短く済むという大きなメリットがあります。ただし、この方法には再発のリスクが伴います。一度は薬で炎症を抑え込んでも、数ヶ月後から数年後に再び虫垂炎を繰り返す可能性が十数パーセントあるとされています。一方、「手術療法」は、炎症が強く、虫垂が破裂する(穿孔する)危険性が高い場合や、すでに膿の塊(膿瘍)を形成している場合、あるいは保存的治療で改善が見られない場合に選択されます。手術は、炎症の根本原因である虫垂そのものを切除するため、再発の心配がなくなるという根治的なメリットがあります。現在の手術の主流は、お腹に数カ所の小さな穴を開けてカメラと器具を挿入して行う「腹腔鏡下手術」です。従来の大きくお腹を切る「開腹手術」に比べて、傷が小さく、術後の痛みも少なく、回復が早いのが特徴です。このように、虫垂炎の治療は画一的ではなくなっています。医師はCTなどの画像所見から重症度を正確に評価し、それぞれの治療法の利点と欠点を丁寧に説明した上で、患者さんと相談しながら最適な方針を決定していきます。