大人がかかる耳下腺炎の中で、おたふく風邪と並んで頻度が高いのが「化膿性耳下腺炎」です。これは、ムンプスウイルスが原因のウイルス性疾患であるおたふく風邪とは異なり、主に口の中にいる常在菌(ブドウ球菌やレンサ球菌など)が、唾液の出口から耳下腺に逆流し、感染・増殖することで起こる細菌性の炎症です。通常、唾液は常に口の中に流れ出ているため、細菌が逆流することはあまりありません。しかし、何らかの理由で体の抵抗力(免疫力)が低下したり、唾液の分泌量が減少したりすると、細菌が侵入しやすくなってしまいます。特に、高齢者や、糖尿病などの持病がある方、大きな手術の後で体力が落ちている方、あるいは強いストレスや疲労がたまっている方は、化膿性耳下腺炎を発症するリスクが高くなります。また、脱水状態になると唾液が濃縮されて流れにくくなるため、夏場の水分不足なども引き金になり得ます。症状は、片側の耳下腺が急に赤く腫れ上がり、強い痛みを伴うのが特徴です。おたふく風邪が両側腫れることも多いのに対し、化膿性は片側性であることがほとんどです。押すと非常に痛く、熱感を持つこともあります。口の中から耳下腺の開口部を押すと、膿が出てくることもあります。細菌感染なので、高熱が出たり、体のだるさを感じたりといった全身症状を伴うことも少なくありません。治療の基本は、原因となっている細菌を叩くための「抗生物質」の投与です。軽症であれば飲み薬で対応できますが、症状が強い場合や、食事が摂れないような場合には、入院して点滴で抗生物質を投与する必要があります。また、痛みを和らげるための鎮痛剤も処方されます。膿が溜まって膿瘍を形成してしまった場合には、皮膚を少し切開して膿を出す処置が必要になることもあります。化膿性耳下腺炎は、適切な治療を受ければ数日から一週間程度で改善に向かいますが、こじらせると重症化することもあります。体の抵抗力が落ちている時のサインと捉え、早めに耳鼻咽喉科を受診することが大切です。
細菌が原因?大人が注意すべき化膿性耳下腺炎