一度だけでなく、何度も耳下腺の腫れと痛みを繰り返す。特に両側の耳下腺が、代わるがわる、あるいは同時に腫れることがある。このような症状がある場合、それは単なる細菌感染による耳下腺炎ではなく、「反復性耳下腺炎」と呼ばれる状態かもしれません。そして、その背後には「シェーグレン症候群」という自己免疫疾患が隠れている可能性があります。シェーグレン症候群は、本来、体を守るべき免疫システムに異常が生じ、自分自身の体の正常な組織を攻撃してしまう自己免疫疾患の一つです。特に、涙や唾液を作り出す「外分泌腺」が攻撃の標的となりやすく、その結果としてドライアイ(眼の乾燥)やドライマウス(口の乾燥)といった症状が現れるのが特徴です。この病気では、唾液腺である耳下腺や顎下腺も攻撃の対象となるため、慢性的な炎症が起こり、唾液の分泌が低下します。そして、何らかのきっかけで炎症が急性増悪し、耳下腺が腫れて痛むという症状を繰り返すことがあるのです。シェーグレン症候群による耳下腺炎は、中年以降の女性に多く見られる傾向があります。腫れは数日から数週間で自然に軽快することもありますが、何度も繰り返すうちに唾液腺の組織が破壊され、唾液の分泌量が恒久的に減少してしまうこともあります。診断のためには、耳鼻咽喉科での診察に加え、血液検査で自己抗体(抗SS-A抗体、抗SS-B抗体など)の有無を調べたり、唾液の分泌量を測定する検査や、涙の量を調べる眼科での検査を行ったりします。場合によっては、唇の内側にある小唾液腺の組織を少量採取して調べる生検が行われることもあります。シェーグレン症候群そのものを根治する治療法はまだありませんが、症状を和らげるための対症療法が中心となります。耳下腺の腫れに対しては消炎鎮痛剤が用いられ、口の渇きに対しては人工唾液や唾液分泌を促進する薬が使われます。もし、原因不明の耳下腺の腫れを繰り返しているなら、一度、膠原病内科などとも連携できる総合病院の耳鼻咽喉科で、詳しい検査を受けてみることをお勧めします。