お腹の右下が痛むと、真っ先に虫垂炎を疑うのは自然なことです。しかし、右下腹部には大腸や小腸だけでなく、尿管や、女性であれば卵巣や卵管といった様々な臓器が集まっており、痛みの原因となる病気は虫垂炎以外にも数多く存在します。そのため、正確な診断を下すには専門医による鑑別が不可欠です。虫垂炎と症状が似ていて間違えやすい病気の代表格が「大腸憩室炎」です。憩室とは、大腸の壁の一部が外側に袋のように飛び出したもので、この袋の中に便などが詰まって炎症を起こすと、虫垂炎とよく似た腹痛や発熱を引き起こします。特に、虫垂の近くにある上行結腸に憩室炎が起こると、痛みの場所がほぼ同じであるため、鑑別が非常に難しくなります。次に考えられるのが、「尿路結石」です。腎臓で作られた石が尿管を下降する際に、激しい痛みを引き起こす病気です。石が右の尿管の下の方に詰まると、右下腹部に痛みが生じます。血尿を伴うことが多いですが、腹痛の性質が似ているため、虫垂炎と間違われることがあります。女性の場合は、婦人科系の病気の可能性も常に考慮しなければなりません。例えば、「卵巣出血」や「卵巣嚢腫茎捻転(らんそうのうしゅけいねんてん)」は、突然の強い右下腹部痛を引き起こします。卵巣嚢腫がねじれる茎捻転は、緊急手術が必要となる状態です。また、子宮外妊娠の破裂や、骨盤内炎症性疾患(PID)なども、右下腹部痛の原因となり得ます。その他にも、感染性腸炎や、高齢者では虚血性大腸炎、さらには大腸がんなどが、虫垂炎のような症状で発症することもあります。このように、右下腹部痛の原因は一つではありません。CTなどの画像検査は、これらの病気を見分ける上で極めて重要な役割を果たします。自己判断で「虫垂炎だろう」と決めつけたり、痛み止めでごまかしたりせず、必ず外科や消化器外科、場合によっては泌尿器科や婦人科といった専門医の診察を受け、正しい診断に基づいて適切な治療を受けることが大切です。