大人が「おたふく風邪(流行性耳下腺炎)」にかかると、子供に比べて症状が重くなる傾向があるだけでなく、様々な合併症を引き起こすリスクが高まるため、特に注意が必要です。耳の下が腫れて痛いという局所的な症状にとどまらず、全身に深刻な影響を及ぼす可能性があることを知っておくべきです。最も頻度が高く、注意すべき合併症が「無菌性髄膜炎」です。これは、おたふく風邪の原因であるムンプスウイルスが、脳や脊髄を覆う髄膜にまで侵入して炎症を起こすものです。耳下腺の腫れが始まってから数日後に、激しい頭痛、繰り返す嘔吐、高熱といった症状が現れます。首の後ろが硬くなって曲げにくくなる(項部硬直)のも特徴です。ほとんどの場合は後遺症なく回復しますが、入院による安静と対症療法が必要となります。次に、非常に深刻な後遺症を残す可能性があるのが「ムンプス難聴」です。これは、ウイルスが内耳にダメージを与えることで起こる感音性難聴で、多くは片側の耳に、突然、高度の聴力障害が起こります。残念ながら、現在のところ有効な治療法はなく、聴力が回復することはほとんどありません。発症頻度はそれほど高くありませんが、一度起こると生活の質を大きく損なうため、最も恐れられている合併症の一つです。さらに、思春期以降の男性がかかった場合に約二割から三割の頻度で起こるのが「精巣炎」です。耳下腺の腫れから数日後に、片側の精巣が赤く腫れ上がり、強い痛みを伴います。両側の精巣炎を起こすと、将来的に男性不妊の原因となる可能性も指摘されています。同様に、女性では「卵巣炎」を起こすことがありますが、頻度は低く、不妊に繋がることは稀とされています。これらの合併症は、おたふく風邪のワクチンを接種することで、その発症を効果的に予防することができます。もしワクチン未接種で、罹患歴もない大人が耳下腺の腫れに気づいたら、これらの合併症のリスクを念頭に置き、速やかに耳鼻咽喉科を受診することが重要です。
おたふく風邪の合併症。大人が特に注意すべきこと