それは、大きなプロジェクトが佳境を迎え、連日残業が続いていた夏の終わりのことでした。ある朝、目覚めると左の顎のあたりに違和感がありました。鏡を見ると、耳の下がぼんやりと腫れています。触ると少し痛みがありましたが、仕事が忙しかったため、「寝違えたかな」程度に考え、そのまま出社しました。しかし、昼食を摂ろうとサンドイッチを口に入れた瞬間、左の耳の下にズキンと鋭い痛みが走りました。酸っぱいドレッシングのせいか、唾液が出ると同時に痛みが誘発されるような感覚です。午後になると、腫れはさらに大きくなり、熱っぽさも感じ始めました。同僚から「顔の輪郭が違うよ、おたふくじゃないの?」と心配され、さすがにこれはおかしいと、会社の近くの耳鼻咽喉科に駆け込みました。医師は私の顔を見るなり、「典型的な耳下腺の腫れですね」と言いました。子供の頃におたふく風邪にかかった記憶はなかったため、今さらかかるのかと不安になりましたが、診察の結果は意外なものでした。超音波検査で耳下腺を調べてもらったところ、中に小さな白い影が見つかったのです。医師の説明によると、これは「唾石(だせき)」という、唾液の成分が固まってできた石で、これが唾液の管に詰まって唾液の流れを悪くし、二次的に細菌感染を起こして炎症(耳下腺炎)を引き起こしているとのことでした。原因は、疲労やストレスによる唾液の性質の変化や、水分摂取不足などが考えられるそうです。思い返せば、この数週間、忙しさにかまけて食事は不規則、水分もコーヒーばかりで、体は限界だったのかもしれません。治療は、まず抗生物質と消炎鎮痛剤で炎症を抑えることになりました。数日間の服薬で痛みと腫れは劇的に改善。幸い、私の唾石は小さかったため、自然に排出されるのを待つことになりました。この経験を通じて、体の不調は多忙な生活への警告なのだと痛感しました。そして、専門医の診断がいかに重要かを身をもって知った出来事でした。
私の耳下腺炎体験記。原因は意外なところに