ある日突然、耳の下、ちょうど顎の付け根あたりが腫れて痛む。食事をしようと口を開けると、さらに痛みが強くなる。このような症状に見舞われた時、多くの大人が「まさか、今さらおたふく風邪?」と戸惑うかもしれません。確かに、耳下腺が腫れる代表的な病気は、子供の頃にかかることが多い「おたふく風邪(流行性耳下腺炎)」です。しかし、大人の耳下腺の腫れは、必ずしもおたふく風邪とは限りません。むしろ、他の原因による「耳下腺炎」である可能性も十分に考えられます。おたふく風邪は、ムンプスウイルスという特定のウイルスに感染することで起こる、伝染性の高い病気です。一度かかると終生免疫が得られるため、基本的には二度かかることはありません。ワクチン接種によっても免疫を獲得できます。一方、大人が経験する耳下腺炎には、様々な原因が考えられます。最も多いのが、唾液の出口から細菌が逆流して感染を起こす「化膿性耳下腺炎」です。これは、体の抵抗力が落ちている時や、脱水状態、口腔内の衛生状態が悪い時などに起こりやすくなります。また、唾液の成分が固まって石のようになる「唾石症」によって唾液の流れがせき止められ、二次的に炎症を起こすこともあります。さらに、シェーグレン症候群のような自己免疫疾患が原因で、両側の耳下腺が繰り返し腫れる「反復性耳下腺炎」という状態もあります。これらの耳下腺炎は、おたふく風邪のように他人にうつることはありません。しかし、症状は非常によく似ているため、自己判断は禁物です。特に、おたふく風邪だった場合には、髄膜炎や難聴、精巣炎・卵巣炎といった重篤な合併症を引き起こすリスクが子供より高いとされています。そのため、大人が耳の下の腫れと痛みに気づいたら、速やかに「耳鼻咽喉科」を受診し、その原因がウイルス性なのか細菌性なのか、あるいは他の要因なのかを正確に診断してもらうことが、適切な治療と合併症予防への第一歩となるのです。
大人がかかる耳下腺炎。おたふく風邪との違いとは