私は長年、消化器内科医、そして肝臓専門医として、数多くの患者さんと向き合ってきました。その中で常に感じているのは、「もう少し早く来てくれていたら」という思いです。肝臓は非常に我慢強い臓器で、ダメージを受けてもなかなか症状として表に出しません。そのため、多くの人が「まだ大丈夫だろう」「ただの疲れだ」と自己判断し、受診のタイミングを逸してしまうのです。今日は、専門医の立場から、なぜ肝機能の異常を指摘されたら迷わず受診してほしいのか、その理由をお話ししたいと思います。まず、肝臓の病気は早期発見、早期介入が何よりも重要だからです。例えば、今や国民病ともいえる脂肪肝。かつては良性の状態と考えられていましたが、近年ではその一部が「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」という炎症を伴う状態に進行し、肝硬変や肝がんのリスクを高めることが分かってきました。初期の脂肪肝であれば、食事や運動といった生活習慣の改善だけで十分に回復が見込めます。しかし、炎症や線維化が進んでしまうと、元に戻すことは難しくなります。私たちは血液検査の数値や超音波検査の所見から、そのリスクを評価し、患者さん一人ひとりに合った適切な指導を行うことができます。また、B型肝炎やC型肝炎といったウイルス性肝炎も、現在は優れた治療薬が登場し、ウイルスの活動を抑えたり、体内から排除したりすることが可能になりました。かつては不治の病と恐れられていた病気も、今やコントロールできる時代なのです。しかし、そのためにはまず、ご自身がウイルスに感染しているかどうかを知る必要があります。健康診断の数値異常は、そうした隠れた病気を発見する最大のチャンスです。どうかそのサインを見過ごさないでください。あなたの未来の健康を守るために、私たちはいつでも待っています。